大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所宇部支部 平成3年(ワ)37号 判決

主文

一  被告は、原告らが別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分及び同図面一の鋲①、ヌ、ル、ニ、チ、鋲①の各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分を通路として通行することを妨害してはならない。

二  被告は、原告らに対し、前項記載の土地部分に通行の妨害となる工作物を設置してはならない。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告らが別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地及びニ、ホ、ヘ、リ、ト、鋲①、チ、ニの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地部分(以下「本件係争地」という。)を通路として通行することを妨害してはならない。

二  被告は、原告らに対し、前項記載の土地部分に通行の妨害となる工作物を設置してはならない。

三  被告は、原告らに対し、別紙図面一のロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ロの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地に設置された便槽を撤去せよ。

第二  事案の概要

一  原告の主張の要旨

1  原告らは、別紙物件目録二記載に表示の土地(但し、本件に関係する際の各土地の所在はいずれも旧所在であるので、以下に認定するのはいずれも旧所在である。なお、地番については変更はない。以下、関係各土地については地番のみをもって表示する。)をそれぞれ所有しており、右各土地の配置状況は、概ね別紙図面二の分間図(公図又は字図といわれるものである。)のとおりである(赤い着色部分は赤線道(農道)である。)。

(右各土地の所有関係を除く、右各土地の配置状況が概ね別紙図面二の分間図のとおりであることは、当事者間に争いがない。)

2  別紙物件目録二記載の各土地のうち、5の土地を除くその他の土地は、もと西村ツキ子の所有であり、右5の土地は、西村ツキ子の娘の野上登美及び同女の娘である西村しげみ、西村ツキ子の甥の西村巖の所有であった。

3  原告らは、それぞれ別紙物件目録二に記載の土地を買い受けるに際し、西村ツキ子から本件係争地を通路として通行することの承諾を得、通行地役権の設定を受けたものであり、「右通行地役権は、土地所有者又はその他の権利変換等がなされた場合は、無条件で次者に承継される」(甲四添付の覚書)とされており、原告らのために通行地役権が設定されていたものであり、その後分筆等がなされているが、本件係争地は、右通行地役権の範囲内であり、自動車による通行もその内容として含まれるものである。

なお、原告井町及び原告深町は、山口トヨタ興産株式会社から購入したものであるが、同社は、転売目的のために西村ツキ子から購入して原告に転売したものであり、右西村ツキ子の通行地役権にかかる義務を承継しているものである。

4  原告らが本件各土地を買い受けた当時から自動車での通行を前提としており、実際、原告らの家族又は原告らから本件土地上の建物を賃借している賃借人も自動車での通行による利用をしているし、また、清掃車の通行等自動車の利用が当然のこととされていたが、その範囲は、請求一項のとおりである。

仮に、契約による通行地役権が認められないとしても、右のような利用状況等からして、少なくとも黙示の通行地役権が認められるというべきである。

5  被告は、右通行地役権の義務者である地位を承継した。

また、被告が本件係争地を取得した際に、通行地役権が存在すること、少なくとも、原告らが自動車で本件係争地を通行していることを知っていたのであるから、黙示の通行地役権が設定されたというべきであり、また、被告は、通行地役権につき、登記のなされていないことを主張する正当な利益を有しない。

6  被告は、平成二年九月頃、別紙物件目録三の1に記載の土地を野上登美から贈与を受け、同目録三の2に記載の土地を買い受け、所有しているところ、本件係争地内にブロック塀を築くなどしようとして原告らの通行地役権の存在を争い、通路として通行することを妨害しようとしている。

(争いがない事実)

二  被告の主張の要旨

1  二二六三番五の土地と二二六三番四の土地との間には、従来排水溝があり、二二六三番四の土地が通路として利用されていた事実はない。原告らが、通行していたのは、二二六三番五の土地及び原告永野所有の二二六三番六の土地の一部であった。

しかし、原告永野が、二二六三番五の土地と原告永野所有の二二六三番六の土地の境界にブロック塀を築いたため、通行が困難になったにすぎないものである。

2  原告ら主張の通行地役権は、登記が経由されていないのであるから、被告には対抗することができない。

3  二二六三番四の土地は、昭和五五年五月一六日に二二六三番一の土地から分筆されたものであるが、同日、二二六三番五の土地も分筆されているところ、二二六三番四の土地はその上に建物が存在していたので、右建物のために別個に分筆されたものであって、通路部分として提供されたものではなく、当時所有者であった野上登美の意思としても通行地役権を設定する意思がなかったというべきであり、したがって、被告は、同人から、通行地役権の存在についての説明を受けていないのであって、通行地役権の義務者である地位を承継していない。

4  原告永野が、二二六三番五の土地と原告永野所有の二二六三番六の土地の境界部分にブロック塀を築いた後、通路が狭くなったため、自動車が、本件係争地を通行し、被告所有の建物の屋根に衝突するなどしたため、それを避けようとして原告ら主張のようなブロック塀を築こうとしたものであり、また、原告らの通行権が認められるとしても、別紙図面一のチ点よりわずかに二二六三番四の土地に入った部分につき認められるにすぎないというべきであるから、原告らの主張は権利の濫用にあたるというべきである。

さらに、原告永野は、二二六三番六の土地に建物を建て、ブロックを築いたものであり、二二六三番四の土地を利用していないのであるから、同原告については、この点からも本件申立ては権利の濫用になる。

また、別紙図面一のロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ロの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地に設置された便槽については、少なくとも原告らの通行の妨害にはなっていないし、被告の生活権の範囲内であるから、右撤去を求める部分は権利の濫用として許されないというべきである。

三  争点

本件の争点は、原告らが本件係争地の通行地役権を有するか否か(黙示の通行地役権の存否も含む。)である。

第三  判断

一  前記争いがない事実及び証拠(甲一乃至三、六、七の1乃至3、八乃至一八、一九の1、2、二〇の1、2、二二乃至三六、証人智夫豊明、被告、原告新宮信夫、同永野孝昭、同山田曙美、同井町種吉)によれば、次の事実が認められる。

1  原告らは、別紙物件目録二記載の土地を、それぞれ所有しており、右各土地の現在の配置状況は、概ね別紙図面二の分間図のとおりである(赤い着色部分は赤線道(農道)である。)が、その以前は、概ね別紙図面三(甲四に添付の図面)のとおりである。

2  別紙物件目録二記載の各土地のうち、5の土地を除くその他の土地は、もと西村ツキ子の所有であり、右5の(一)の土地は、西村ツキ子の娘の野上登美の、同(二)の土地は西村ツキ子の甥の西村巖の、同(三)の土地は野上登美及び同女の娘である西村しげみの各共有であった。

また、昭和五二年四月二六日、野上登美(持分三分の二)及び西村しげみ(持分三分の一)の共有であった二二六二番二の土地から二二六二番三の土地(同目録三の1の土地)が分筆され、昭和五五年九月二五日売買を原因として持分の三分の一が西村しげみに移転し(同月二六日に登記)、その後、昭和五六年一二月二〇日売買を原因として残りの持分三分の一が西村しげみに移転し(同月二四日に登記)、平成二年九月一一日贈与を原因として被告に移転し、同目録三の2の土地は、もと西村ツキ子の所有であったものが、昭和五九年三月二八日競売による売却を原因として野上登美に移転し(同月二九日に登記)、平成二年九月一一日売買を原因として被告に移転している。

3  原告新宮は、昭和五〇年二月七日、有限会社大地から二二六五番七の土地(別紙物件目録二の1に記載の土地。以下「本件二の1の土地」といい、他の土地についても同様に表示する。)を買い受けたものであり(但し、登記簿上は西村ツキ子から買い受けたようになっている。)、その際作成された売買契約書(甲八)には、「道路は四メートルを確保し、バラスによる道路を引渡しまでに完成させる。」旨の記載があり、原告宮田は、昭和五〇年二月一二日、有限会社大地を仲介人として、西村ツキ子から二二六五番八の土地(本件二の6の土地)を買い受けたものであるが、その際における売買契約書(甲三)には、「①進入道路四メートル幅は、売主が提供し、道路として確保する。②造成水道工事は売主が施行するものとする。」との記載があり、原告井町は、昭和五五年一月二九日、二二六五番一四の土地(本件二の2の土地。甲四)、原告深町は、昭和五五年四月一〇日、二二六五番一三の土地(本件二の7の土地。甲六)、それぞれ山口トヨタ興産株式会社から買い受けたが、その際に添付された図面が別紙図面三である。

4  西村ツキ子は、昭和五〇年頃、原告小川宛に承諾書(甲一)を作成しているが、右承諾書には、「二二六三番一、二二六五番一及び二二六五番九の各土地につき、通行路として永久無償で利用することを承諾する。又、その所有者及び通行者の変更があってもこの承諾書は継続するものとす。」の旨の記載があり、また、西村ツキ子及び野上登美は、昭和五四年一一月二一日付の覚書(甲四添付)において、西村ツキ子所有の二二六三番一、二二六五番九及び二二六五番一の各土地及び野上登美所有の二二六二番三の土地につき、原告新宮、同宮田、同小川、同永野らのために通行権を認め、その所有権を移転するときには、通行権を承継させることを約束している。

5  右昭和五四年一一月二一日付の覚書作成後である昭和五五年五月一六日、二二六三番一の土地から二二六三番四及び二二六三番五の土地が分筆され、二二六三番五については、同年七月一七日に畑から公衆用道路に地目変更がなされ(但し、原因としては、昭和三五年月日不詳変更、甲九)、二二六三番四については、平成二年九月六日に畑から宅地に地目変更がなされ(但し、原因としては、昭和四四年月日不詳変更、甲一〇)、平成二年九月一一日受付で被告に所有権移転登記手続が経由されているところ、昭和五五年五月頃、二二六三番四及び二二六三番五の各土地を分筆するための測量(二二六三番三の土地も同時に測量されており、分筆もなされたものと推認できる。甲一四)がなされているが、二二六三番五の土地以外にわざわざ二二六三番四の土地をも分筆したのは、当時の二二六三番一の土地上に、現在被告の所有となっている建物がはみ出していたからであり、右建物の存在する敷地部分を考慮して分筆したものであるものと推認することができる。

その後、昭和五七年二月頃、現在原告永野所有の二二六三番六の土地が二二六三番一の土地から分筆されているが、その分筆経過からして、右二二六三番四の土地等との境界は明確にされていた。

6  現在における本件係争地付近の状況は、別紙図面一のとおりであり、原告らが、通行地役権を根拠に妨害の禁止を求める部分のうち、別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地及びル、ニ、チ、ヌ、ルの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地及びロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ロの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地はいずれも二二六三番五の土地の一部であるが、同図面のホ、ル、ヌ、チ、鋲①、リ、ヘ、ホの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地は概ね二二六三番四の土地の一部であり、同図面の鋲①、ト、リ、鋲①の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地は、二二六四番一の土地の一部であり、同図面の鋲②、チ、鋲①、トの各点を順次直線で結んだ北側には、二二六二番三の土地との間に赤線道がある。

7  原告らは、二二六三番五の土地を南側から北側に向かい、その奥に位置するそれぞれの所有土地に至るまで自ら又は賃借人をして普通自動車等を利用して通行しているが、二二六三番五、二二六二番三、二二六五番九、二二六五番一の各土地等が公道に出るための唯一の通路である。

原告永野が二二六三番六の土地を取得(昭和五九年四月頃)し、整地をした昭和六二年頃までは、同土地と二二六三番五の土地の境界付近は、多少の段差があったものの、現況では、境界部分が必ずしも明確ではなく、また、右整地後平成三年一月頃に、原告永野が二二六三番六の土地内の別紙図面一にブロックと表示のある部分にブロック塀を設置するまでの間は、原告らが自動車で左折をする場合、別紙図面一のC点付近では、二二六三番六の土地にはみ出して進入したり、同図面チ点付近では、二二六三番四の一部にはみ出して進入していたが、被告所有の建物の軒下すれすれまでを通行していたというわけではない。

なお、二二六三番五の土地のほとんどの部分が簡易舗装されているが、二二六三番四の土地との境界付近は、被告所有の建物に付属する便槽が別紙図面一のワ、ロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ホ、ワの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地に設置され、ロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ロの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地に設置された部分が二二六三番五にはみ出しており、その関係から簡易舗装のなされていない部分もあり、一方、別紙図面一のチ点付近における二二六三番四の土地の一部は簡易舗装されていたが、被告がブロック塀を設置しようとした際、右簡易舗装部分を削り取ったため、現在、土部分が露出している。

8  被告が、二二六三番四の土地を買い受けた際、西村ツキ子から、右土地の一部が通行地役権の制約を受けることについての説明を受けたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、5項で認定の分筆経過からすると、説明がなかったというべきである。

原告ら以外の大型の自動車が通行する際、二二六三番四の土地上に所在する建物の軒下の庇に当たり、庇が取れてしまった。

9  なお、原告永野は、もともと別紙図面のC点付近は、二二六三番六の土地より二二六三番五の土地の方が高く、三〇センチメートル程度の段差があったが、昭和六二年頃整地をした後は赤線道や二二六三番五の土地より高くなったものであり、整地後は部分的には自動車が通行することがあったかも知れない旨を述べるものの、整地前は境界付近には雑木等があり、二二六三番六の土地に入って左折するということはできなかったと思う旨述べるが、二二六三番六の土地に入って左折していたかどうかについての点は、原告新宮、同井町の供述とは明らかに異なっており、本件のような道路を左折する際には、できるかぎり右に膨れながら左折しようとするのが通常であることに照らすと、直ちに信用することができないし、原告らが、右のように左折する際には、二二六三番六の土地に入ることがあったことは否定できないし、一方、被告は、二二六三番四の土地に入って通行することはなかった旨述べるが、道路の幅や道路状況等に鑑みると、少なくとも、別紙図面一のチ点付近においては、自動車が多少二二六三番四の土地に入って進行していたこともまた、経験則から明らかであるというべきであるから、これに反する被告の供述もまた信用することができない。

二  以上の事実をもとに、原告ら主張の通行権について判断する。

1  前項4で認定の承諾書(甲一及び覚書(甲四添付)の記載内容並びに同3で認定の売買契約書の記載内容によれば、西村ツキ子らは、本件二の各土地及びその周辺の土地を分筆して売却するに際し、公道に至る道がないことから、右土地の取得者に対し、通行権を確保するために右のような承諾書及び覚書を作成し、通行権を認めたこと、もっとも、西村ツキ子らは、右各土地のうち、一部を第三者に所有権を移転していたものの、右通行権を第三者に承継させる意思を有していたし、実際、右第三者らにおいても、西村ツキ子らとの契約に基づき、原告らに対し、通行権を承継する意思を有し、これを認めたうえで、売買契約をなしたものであって、右のような経緯からすると、原告らは、全員通行権を取得していたものであり、右は通行地役権であると認められる。

2  次に、右通行権の範囲及び内容につき検討するに、西村ツキ子らが認めた通行地役権の範囲については、二二六三番一、二二六五番一、二二六五番九、二二六二番三の各土地との表示があるものの、具体的な位置関係については必ずしも測量図面による特定はなされていない。

もっとも、二二六五番一、二二六五番九、二二六二番三の各土地については通行地役権につき争いがないところであるが、二二六三番一の土地については、前記認定のとおり、右のように通行地役権が設定された当時は、原告永野が後に取得した二二六三番六の土地、二二六三番四の土地及び二二六三番五の土地やその他の部分の分筆前であり、これらの土地も含まれていたものであり、どの範囲内に通行地役権を認めるのかについては、必ずしも明確ではなかったものといわざるを得ない。

そこで、右の範囲をさらに検討するに、当時、現在の二二六三番四の土地上には、建物があり、建物部分は少なくとも除く意思であったことだけは明確であるというべきであるが、前項5で認定したように、右建物が存在していた部分が当時の二二六三番一の土地にはみ出していたことから、右建物の敷地のために二二六三番四の土地を分筆したものであり、このような経緯、及び、原告らが本件二の各土地を取得した際の売買契約における四メートル道路とする約束が全然守られたことがない経緯、右二二六三番四の土地を分筆した際には、原告らの通行地役権を確保する必要性があれば、現在の二二六三番六の土地の西側を確保することができたのにこれをしていないこと、さらには、野上登美らが被告に土地を売却した際、前項6で認定のとおり、通路として使用されていることが明白な二二六二番三の土地については通路としての使用を維持するために、被告に贈与しているのに対し、二二六三番四の土地については、売買としていること等の諸事情からすると、西村ツキ子及び野上登美には、二二六三番四の土地を通行地役権の対象とは考えていなかったのではないかと思われるところである。

3  一方、前記認定の事実によると、原告らは、それぞれ自己の所有地を取得して間もない頃から自動車による通行をしていたことが認められるし、清掃車等の自動車が通行していたことは優に推認することができるところであり、したがって、自動車が通行することは西村ツキ子らにおいても認識していたものと推認することができるところであるが、そうすると、原告らの取得している通行地役権は、徒歩や自転車等による通行のみならず、自動車による通行も含まれることになる。そして、自動車による通行の場合、二二六三番四の土地の一部に入って、すなわち、別紙図面一のチ点から内側に入って通行していたことは、西村ツキ子らは、認識し、少なくとも黙認してきたものと推認することができるというべきであるし、被告についても二二六三番四の土地を取得した際には認識していたものというべきである。

もっとも、そうすると、二二六三番四の土地を分筆する際に、右のような使用状況を知って、現状のように分筆することは本来不自然であり、当然二二六三番四の土地の北東角を隅切りするべきであったはずであるというべきことになる。

4  以上のような諸事情を総合すると、西村ツキ子は、二二六三番四の土地の分筆の際には、深く考えることなく、同土地上の建物の利用のための分筆ということを中心に考えて測量を依頼したため、単に現状のような形での測量図が出来上がり、二二六三番四の土地の北東角を隅切りし、自動車の通行の便宜云々については全く気がつかずに、右測量図による結果を認容して、二二六三番四の土地を分筆してしまったに過ぎないものであるというべきである。

そうすると、西村ツキ子の意識としては、やはり二二六三番四の土地については、通行地役権の範囲にあるとは考えていなかったものというべきであるから、結局、二二六三番四の土地については、西村ツキ子らとの契約に基づく通行地役権としては認められないというべきである。

5  しかしながら、次に、黙示の通行地役権が認められるか否かにつき判断するに、右のような原告らの自動車による通行状況を西村ツキ子は、少なくとも黙認してきたと思料されること、被告が二二六三番四の土地の原告ら主張の範囲にブロック等を築くと、軽四輪自動車はともかく、普通乗用自動車又はそれ以上大きい自動車の通行は不可能となり、大きな不便を強いられる結果となることが認められること、また、被告は右のような状況を知ったうえで、二二六三番四の土地を取得したものと認められること等の諸事情からすると、二二六三番四の土地の北東角部分には、黙示の通行地役権が認められるというべきであるが、一方、別級図面一の鋲①、ヌ、チ、鋲①を直線で結んだ範囲内の土地につき通行地役権を認めれば充分自動車による通行が可能であること(なお、チ、ヌ、ル、ニ、チを順次直線で結んだ範囲内の土地は、二二六三番五の土地の一部であるから当然通行地役権が認められる。)、仮に、多少の不便が生じるとしても、それはもともと二二六三番六の土地の一部を通行に利用していたものが、原告永野の築いたブロック塀の設置のために生じた結果であるから、原告永野に対する措置により対処するべきであり、以上の事実からすると、右黙示の通行地役権が認められる範囲は、別紙図面一の鋲①、ヌ、チ、鋲①を直線で結んだ範囲内の土地というべきである。

なお、原告らが通行地役権が認められるべきであると主張する範囲のうち別紙図面一の鋲①、ト、リ、鋲①を順次直線で結んだ範囲の土地は、もともと西村ツキ子らとの間における契約の範囲外のものであり、右部分が実際に黙示の通行地役権が認められるほどに利用されていたものとは認められないこと、これが認められなくとも、必ずしも通行が不可能であるとまでは認められないこと、等の諸事情からすると、通行地役権は認められないというべきである。

なお、前記覚書(甲四添付)の第一条中には、二二六四番一の土地の記載があるが、右第一条にいう二二六四番一の土地は、承役地としてではなく、要役地としての表示であるから、二二六四番一の土地には契約上の通行地役権が存在しないことは明らかである。

また、別紙図面イ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地は、二二六三番五の土地に属するのであるから、この部分については、通行地役権が認められる。

そして、先に説示のとおり、被告は右のような黙示の通行地役権の存在を認識して二二六三番四の土地を取得したものであり、被告に対する関係においても黙示の通行地役権が認められるというべきであり、右通行地役権の認められる部分について、被告がブロック塀等を設置しようとしたことは当事者間に争いがない事実であるから、右部分について、妨害禁止及び工作物の設置の禁止を求める原告らの請求は理由がある。

6  なお、被告は、原告らの通行地役権は、登記が経由されていないから、対抗力がない旨主張するが、二二六三番五の土地部分については、被告には所有権はなく、したがって、右部分内に工作物を設置すれば、不法占拠者となるものであるから、登記の欠缺を主張し得る正当の利益を有しないし、また、二二六三番四の土地のうち前記認容部分についても、原告らが現に通行していたことは充分認識していたのであり、前記説示のとおり通行地役権を保護すべき利益が大きいこと等の諸事情に照らすと、やはり登記の欠缺を主張し得る正当の利益を有しないというべきであるし、二二六三番四の土地の一部について通行地役権を認めたにすぎないものであるから、被告主張のように権利の濫用になるとはいえないものである。

また、原告永野が、二二六三番六の土地に建物を建てて居住していることをもって、通行地役権を主張することが権利の濫用となる旨の主張については、原告永野は、第三者に二二六五番四の土地上に建てている建物を賃貸し、賃借人が自動車の利用を必要としているのであるから、間接的な利用をしているのであって、このような場合に通行地役権を認めるのは、権利の濫用にはあたらないというべきであるから、右の主張も理由がない。

7  一方、原告らは、別紙図面一のワ、ロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ホ、ワの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地に設置された便槽のうち、二二六三番五にはみ出した部分にあたる同図面ロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ロの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地に設置された部分の撤去を求めるが、右便槽が存在することにより通行の妨げとはならないものと認められること及び便槽の一部の撤去を求めるものにすぎないことに鑑みると、原告らの右請求は権利の濫用と認められるから、理由がない。

三  よって、原告らの、別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地及び鋲①、ヌ、ル、ニ、チ、鋲①の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地部分を通路として通行することの妨害を禁止する請求及び同土地部分に通行の妨害となる工作物の設置の禁止を求める請求は理由があり、その余の部分については理由がない。

(裁判官 鳥羽耕一)

別紙物件目録〈省略〉

別紙図面二、三〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例